阿部萌子さんの写真展 『賛歌』
12月に入ってから、雨が続いた。
この日は寒いけど、奇跡的に雨が降らない日だった。
東堀のスイモンさんで行われていた、写真家 阿部萌子さんの『賛歌』の展示。
「食卓には、生きることを讃える賛歌が流れていると思う」
食べることは生きること。
萌子さんの写真は「生きている」強さがある。写真の中で佇む、人も、空も、海も、4月にみんなとお別れした彼女も、萌子さんの写真の中では確かに「生きている」。
小さい萌子さん。萌子さんから滲み出るパワーの源はなんなのだろう。
彼女のカメラを通してみる世界は、私が思っているより、ずっとずっと強くて。
体の表面だけじゃない、体を流れている血や、呼吸や、声なんかも聞こえてきそうなのだ。私はその人たちを知らないのに、触れたような感覚になる。
会場のスイモンでは、萌子さんの息子さんがパタパタと走ったり、他の子と遊んだりしていた。
みんなで談笑していると突然彼が泣いてしまった。どうやら、どこかにぶつかったようだ。
さっきまで忙しそうに遊んでいたのに、ふとしたことで悲しさに包まれてしまった。お父さんがいないことにも気づいたようで、お父さんを想って呼んでいる。
萌子さんに抱き抱えられ、丸くなってる彼を見て、私たちはついつい微笑んでしまう。寂しいよね、でもね、寂しくないんだよ。お母さんもお父さんも、私たちも、君のことを、いつでも見守っているからね。
食卓を流れる歌は、こういう関係から生まれてくるんだろう。
萌子さんの写した賛歌は、しっかりと私たちに届いている。
また萌子さんに会いたいな。
そしていつか、彼女に写真を撮ってほしいんだ。